昨今の物価高。
食品も光熱費も人件費も上がっていますし、当然ながら内装仕上げ工事で使う建材にも値上げの波は来ています。
私もこれまで何度か「また値上げか!」という記事を書いてきました。
ただ、今回言いたいのは**「値上げするな」という話ではありません。**
原材料費も物流費も人件費も上がっているのですから、メーカーが値上げすること自体は仕方ないと思っています。
私が問題だと思っているのは、
「定価を据え置いたまま、掛け率ばかり上げる値上げをいつまで続けるの?」
ということです。
タイトルではかなり強く、
「内装メーカーは内装工事店や建設会社を潰そうとしてる?」
と書きました。
もちろん本当に潰そうとしているとは思っていません。
でも、この値上げ方法を延々続けていけば、結果として内装工事店や元請けの利益をどんどん削っていくことになります。
だったらもう、
しっかり定価を上げてくれ!
と言いたいんですよね。
20年以上前から「1,090円/㎡」
壁紙を見ると、この業界の不思議さがよく分かります。
いわゆるAAクラスの壁紙。
サンゲツならFEやRE、リリカラならLVやLLなどの商品です。
これらのカタログを見ると、
1,090円/㎡
という価格が記載されています。
私がこの業界に入った20年以上前から、ほぼこの世界なんですよね。
20年以上ですよ?
その間にガソリンはいくら上がったでしょう。
人件費はいくら上がったでしょう。
運送費、電気代、原材料費、何もかも上がっています。
他業種の商品なら、コストが上昇すればメーカー希望小売価格も上がります。
昔10万円だった家電が、モデルチェンジや物価上昇を経て12万円、15万円になる。
別に不思議な話ではありません。
ところが内装仕上げ材は、床材など一部で定価改定が行われているものの、長期間にわたって「定価」をほとんど動かさない商品があります。
では、どうやって値上げするのか。
掛け率を上げるんです。
定価は同じ。でも私たちの仕入価格だけ上がる
例えば定価1万円の商品を50%で仕入れていたとします。
仕入価格は5,000円です。
それが値上げによって掛け率70%になれば7,000円。
定価は1万円のままなのに、仕入価格は5,000円から7,000円です。
掛け率としては20ポイント上昇。
実際の仕入価格で考えれば40%もの上昇です。
ところがお客さんがカタログを見ると、そこに書いてある定価は昔と同じ。
「値段変わってないじゃん」
となるわけです。
内装仕上げ材は一般のお客さんがメーカーから直接購入するケースがほとんどありません。
そのためメーカー側からすれば、定価を据え置いて掛け率を変更する方法でも値上げできます。
しかし、その間に挟まっている内装工事店や建設会社にとってはたまりません。
仕入価格だけがどんどん定価に近づいてくるんです。
定価1,090円なのに、その金額では売れなくなる
簡単な計算をしてみます。
例えば仕入掛け率が50%だったとします。
材料は施工面積ピッタリの数量だけ買えばいいわけではありません。
柄合わせ、切りしろ、端材、施工上のロス、場合によっては失敗分などもあります。
仮にそれらを20%とします。
50% × 1.2 = 60%。
つまり定価に対して60%程度が実質的な材料原価になります。
ここに内装工事店が30%程度利益を乗せると、
60% ÷ 0.7 = 約86%。
さらに元請け側にも当然利益が必要です。
こうして流通の各段階で必要な利益を確保していけば、最終的な販売価格が定価付近になる。
本来「定価」というのは、こういう構造でなければ意味がないと思うんですよね。
ところが仕入掛け率が70%まで上がったらどうでしょう。
70% × 1.2 = 84%。
材料を現場で使える状態にした時点で、もう定価の84%です。
ここから内装工事店が利益を取って、さらに元請けも利益を取る。
無理ですよね。
内装工事店が10%程度しか利益を取らなくても、
84% ÷ 0.9 = 約93%。
その時点で定価の9割を超えています。
元請けがさらに利益を取れば、簡単に定価を突破します。
つまりメーカーがカタログに
「1,090円/㎡」
と書いていても、現実の流通構造ではその価格がほとんど意味を成さなくなっているわけです。
ちなみにカタログには「1,000円/m」という表記もあります。
m単位であれば施工数量とは別に必要m数を計算するので、㎡単価ほどロスを別途考える必要はありません。
それでも掛け率が高くなりすぎれば、結局同じ問題にぶつかります。
「施工費で利益を取ればいい」は簡単に言わないでほしい
この問題については、以前メーカー側にも何度か話したことがあります。
すると、
「材料で利益が取れないのであれば、施工費に乗せればいいじゃないですか」
という趣旨の回答をされたことがあります。
いやいや。
そんな簡単な話じゃないんですよ。
例えば一般的な感覚なら3万円程度に見える小規模工事があったとします。
材料で利益が取れない。
だから施工費に全部利益を乗せる。
その結果、
「工事費6万円です」
と提示したら、お客さんはどう思うでしょう。
「これだけの工事で6万円もするの?」
となりますよね。
今はネットで検索すれば、材料価格も施工相場もある程度出てきます。
材料で利益が取れないからといって、施工費だけ不自然に膨らませれば、
「この工事店、高くない?」
と思われるのはこちらです。
メーカーは「施工費に乗せればいい」と言えば終わりかもしれません。
でも実際にお客さんの前に座って見積書を説明して、
「なぜこの金額になるのか」
を説明するのは工事店や元請けです。
自分の商品の定価は20年前の水準を残したままなのに、
「足りない利益は施工費で取ってください」
というのは、さすがに無責任じゃないでしょうか。
仕入掛け率95%の商品なんて、どうやって商売するの?
商品によっては仕入価格が定価の95%近いものまであります。
ここまで来ると笑うしかありません。
1万円の商品を9,500円で仕入れて、
運んで、
管理して、
発注して、
数量を確認して、
余れば処理して、
不足すれば追加手配して、
施工責任も負う。
それでカタログには「定価1万円」。
残り500円で何をしろと?
商売というのは、商品を右から左に動かすだけでも経費が掛かります。
まして建設業では、現場ごとに数量も違えば納期も違います。
材料を発注しただけで終わりではありません。
それなのに仕入価格が定価ギリギリまで来てしまえば、誰もまともに利益を出せません。
家電量販店ならこんな価格設定にはならない
例えば家電量販店を考えてみます。
メーカー希望小売価格が10万円の商品がある。
お店はそれより安く仕入れ、そこに自社の利益を乗せて販売します。
A店は25%利益を取る。
B店は30%利益を取る。
だから販売価格に差が出る。
お客さんから、
「他店ではもう少し安かったよ」
と言われれば、その5%の利益差の中で価格調整することもできます。
これが普通の商売だと思うんです。
ところが仕入価格が定価の90%、95%になったらどうでしょう。
店ごとの企業努力も何もありません。
値引きする余地そのものが無い。
会社ごとの価格差を作ることも難しい。
利益も取れない。
お客さんには「定価より高いじゃん」と言われる。
こんなの地獄ですよ。
定価を上げることを怖がらないでほしい
だから私はメーカーに言いたい。
もう定価を上げてください。
1,090円/㎡にこだわらなくていい。
1,300円でも1,500円でも、必要なら2,000円でもいい。
原材料、人件費、物流費などを考えて、それが現在の適正価格なのであればカタログに堂々と書けばいいんです。
その代わり、
工事店が仕入れる掛け率を、商売として成立する水準に戻してほしい。
個人的には、少なくとも仕入段階では定価の40%を下回る程度でなければ、その後に工事店、元請け、それぞれが適正な利益を確保するのは難しいのではないかと思っています。
メーカーも利益を取る。
卸も利益を取る。
工事店も利益を取る。
元請けも利益を取る。
それで最終的にお客さんへ販売する。
それでいいじゃないですか。
誰か一社だけが儲けるという話ではなく、流通に関わった会社がそれぞれ適正な利益を取れる価格体系にするべきだと思います。
今さら定価を上げると、とんでもない金額になるのかもしれない
メーカー側にも事情はあるのでしょう。
20年以上ほとんど定価を変えずに来た。
その間に実際の取引価格は掛け率変更で調整してきた。
だから今になって本来あるべき定価に直そうとすると、
「えっ、こんなに上がるの?」
という価格になるのかもしれません。
場合によっては、商品によって昔の倍近い定価を設定しなければ辻褄が合わないものもあるでしょう。
でも、それはこれまで定価を上げなかった反動です。
いつかは直さないといけない。
今後さらに原材料費や物流費、人件費が上がったらどうするのでしょう。
掛け率80%。
90%。
95%。
そして100%?
定価と仕入価格が同じになったら、もう「定価」とは何なのか分かりません。
しかも「掛け率を上げた直後に定価も上げる」は勘弁してほしい
そしてもう一つ。
秋にはサンゲツのフロアタイルのカタログ改訂があります。
そこで定価設定を上げるという話も聞こえてきます。
定価を上げること自体は、私はむしろ賛成です。
やっと定価を上げるのか。それでいい。
問題は掛け率です。
春に掛け率を上げたばかりなのに、秋に定価を上げて掛け率はそのまま。
これでは工事店から見れば、
掛け率変更による値上げ+定価変更による値上げ
です。
実質的な二重値上げになってしまいます。
以前にも掛け率を変更した直後に定価改定が行われ、短期間に二段階で仕入価格が上がったことがありました。
メーカーは、
「この価格でなければ売りません」
と言えます。
しかし私たちは同じようにはいきません。
元請けから、
「その値上げには応じられません」
と言われても、
「じゃあ売りません」
で終われるとは限りません。
実際、値上げを受け入れてもらえず、取引自体が終わってしまった会社もあります。
建設工事は今日仕入れて今日売る商売ではない
ここもメーカーにはもっと考えてほしいところです。
建設工事は契約してから実際に材料を使うまで数か月掛かることがあります。
もっと長い物件だってあります。
半年前の価格で見積もって契約した。
ところが施工する頃には値上げ。
さらにその数か月後にまた値上げ。
その度に、
「材料が上がったので追加してください」
とお客さんへ言えるでしょうか。
簡単ではありません。
特に短期間に二度値上げされれば、誰かがその値上げ分をかぶることになります。
メーカーは価格改定できる。
卸も新しい掛け率で売る。
最後に逃げ場がなくなるのは、
工事店や元請けです。
これを繰り返していたら、そりゃ建設業全体が疲弊します。
値上げするなら堂々と「定価」を上げてくれ!
私は値上げそのものを否定したいわけではありません。
物価が上がっている以上、メーカーにも適正な利益は必要です。
むしろ無理に価格を維持してメーカーが潰れたり、商品の品質が落ちたり、供給が止まったりする方が困ります。
だからこそ言いたい。
値上げするなら、しっかり定価を上げてくれ!
掛け率だけを上げて、カタログ上では昔と同じ価格に見せ続ける。
そのしわ寄せを工事店や建設会社に押し付ける。
そして、
「材料で利益が取れないなら施工費に乗せればいい」
では、あまりにも現場との感覚が違います。
定価を上げる。
掛け率は商売として成立する水準に戻す。
そして価格改定するのであれば、長期間の契約を抱える建設業界が対応できるだけの期間を設ける。
それくらいはやってほしい。
日銀がよく言う「市場との対話」じゃないですが、メーカーにももう少し実際にその商品を売って、施工して、お客さんからお金をもらっている側との対話をしてもらいたいものです。
このまま掛け率ばかり上げ続ければ、
「メーカーは内装工事店や建設会社を潰そうとしてるの?」
なんてタイトルも、単なる大げさな表現では済まなくなってくる気がします。
メーカーも、卸も、工事店も、元請けも。
みんな商売なんです。
ちゃんとみんなが利益を出せる価格設定にしてください。
そのためにも、まずは意味を失ってしまった「定価」を現実に合わせるところから始めてほしいですね。