現場管理アプリの先駆けとして建設業界でシェアを広げてきた「ANDPAD」ですが、最近「早受取」というサービスを展開しているのが少し気になっています。
建設業は昔から資金繰りが難しい業界です。
以前ほど手形決済は多くなくなりましたが、それでも「半金半手」や「月末締め翌々月末払い」といった取引は今でも残っています。一番多いのは「月末締め翌月末払い」でしょうか。
この支払いサイクルが、下請け会社にとっては大きな負担になります。
例えば6月1日に工事をした場合を考えてみます。
材料は工事前に発注するので、多くは5月末には注文済みです。その請求書は5月末締めで届き、支払いは6月末頃になります。
一方、職人さんからは6月末締めの請求書が届き、7月末頃に支払います。
そして元請けへ送る請求書も6月末締め。翌月末払いであれば入金は7月末になります。
つまり、材料代は先に支払い、工事代金は後から入ってくるという流れです。
もし元請けからの入金が7月31日の午後で、職人さんへの振込期限が午前中だったら、その差だけでも資金が必要になります。
建設業を始めるには、技術や仕事だけではなく、ある程度まとまった運転資金が必要と言われる理由がこの辺りにあります。
そんな中で登場したのがANDPADの「早受取」というサービスです。
本来の支払日より前に売上金を受け取れるため、下請け会社からすれば資金繰りはかなり楽になります。
設備投資や材料購入、職人さんへの支払いなどを考えると、このメリットは非常に大きいでしょう。
ANDPAD側としても、こうしたサービスを提供することで下請け会社から
「この元請けでもANDPADを導入してほしい」
という声が増えれば、現場管理システム自体のシェア拡大にもつながります。
非常によく考えられたサービスだと思います。
ただ、その一方で少し気になる部分もあります。
それが、最近世間を騒がせた全東信の事例です。
全東信も仕組みとしては、お店に代わって先にお金を支払い、後から本来入ってくるお金を受け取り、その差額や手数料で事業を行うモデルでした。
もちろん、ANDPADと全東信は事業そのものが同じではありません。
ANDPADの本業は現場管理アプリであり、早受取はそのサービスの一つです。
一方、全東信は決済サービスそのものが事業の中心でした。
そのため、事業構造は大きく異なります。
しかし、「将来入ってくるお金を先に立て替える」という部分だけを見ると、似ている仕組みでもあります。
このようなビジネスは、利用者が増えるほど先に立て替える資金も大きくなります。
通常であれば銀行からの借入や金融機関との提携などで運営されているため、簡単に問題が起きるものではありません。
また、ANDPADのように本業から継続的な利用料収入がある企業は、単純に決済手数料だけで運営している会社よりも収益基盤は安定していると考えられます。
ですから、「全東信と同じになる」と言いたいわけではありません。
ただ、利用する側としては一つだけ覚えておきたいことがあります。
便利なサービスほど、そのサービスを前提に資金繰りを組んでしまうということです。
もし何らかの事情でサービスが停止したり、運営会社に大きなトラブルが起きたりすれば、それまで早受取を前提に資金計画を立てていた会社は、一気に資金繰りが苦しくなる可能性があります。
全東信の件でも、入金を前提に仕入れや支払いを行っていた事業者が少なくありませんでした。
仮に突然その流れが止まれば、黒字経営であっても資金ショートする会社は十分あり得ます。
会社経営では「利益がある会社」と「お金がある会社」は必ずしも一致しません。
利益が出ていても現金がなければ倒産します。
逆に利益が少なくても手元資金が潤沢なら乗り切れることもあります。
だからこそ、中小企業ほど資金繰りが重要と言われるのでしょう。
ANDPADの早受取は、資金繰りを改善する便利なサービスであることは間違いありません。
建設業界への新規参入もしやすくなりますし、急な材料代や人件費にも対応しやすくなるでしょう。
しかし、便利な仕組みだからこそ、それに依存しすぎないことも同じくらい重要だと思います。
今回の全東信の件を見て、「資金を先に受け取れるサービスは便利」ということだけではなく、「その仕組みが止まった時に自社は耐えられるのか」という視点も持っておく必要があるのではないでしょうか。
便利さとリスクは表裏一体。
そんなことを改めて考えさせられるニュースでした。