私が独立を選択肢に入れだしたのが、ここ2、3年になります。
安定した売り上げ実績も出ていましたし、雑談ベースとはいえ、
「独立しても仕事はお願いね。会社にではなく、あなたに頼んでるんだから」
という言葉をもらうこともありました。
もちろん、それをそのまま鵜呑みにして独立できるほど甘い世界ではありませんが、少なくとも独立後の土台になりそうなものは少しずつ出来ていたように感じていました。
ですが、今年の春前頃から少し雲行きが怪しくなってきました。
個人的に「頼むよ」と言ってくれていた担当者が、次々に退職したり、別の会社へ移ったりしているんです。
最初から権限を持っていて、転職先でも「誰に頼んでもいいよ」という立場で動ける人であれば、今でもそこから発注してもらえる可能性はあります。
実際に、そういう人からは転職先でも声を掛けてもらえています。
ただ、ほとんどの場合はそう簡単にはいきません。
新しい会社に入ってすぐに、これまで付き合いのあった外注先へ自由に発注できるわけではありません。
「ある程度実績が出来たら頼みますね」
という電話はもらっていますが、それは今すぐ仕事になる話ではありません。
独立後の主な発注先として期待していたところから、発注できる担当者がいなくなる。
これはかなり大きな問題です。
会社員として働いている今なら、会社全体として取引先が複数あります。
一人の担当者がいなくなっても、別のルートや別の得意先でカバーできる部分があります。
しかし個人で独立した直後となると、そうはいきません。
頼りにしていた数社、数人の動きが、そのまま売上に直結します。
もう一点、気になるのが倒産や廃業の増加です。
10年以上取引していた会社でも、店をたたまないといけないところが出てきています。
工事代金をきちんと集金した後に廃業するのであれば、まだこちらへの影響は限定的です。
しかし、負債を残したまま支払い不能となり倒産するような形になれば、こちらにも未入金リスクが発生します。
今の会社に属している状態であれば、取引先が多岐にわたっているため、1社の倒産くらいでは何とか耐えられる環境があります。
ですが、個人で独立した直後に大きめの未入金を食らうと、かなり危険です。
売上があることと、お金が残ることは別です。
仕事を受けて、材料を仕入れて、職人さんに動いてもらって、工事を完了させる。
そこまで終わっても、入金されなければ資金繰りは一気に苦しくなります。
特に内装工事の場合、材料費や外注費が先に出ていく場面も多いです。
独立直後で資金に余裕がない状態なら、1件の未入金が致命傷になる可能性もあります。
さらに今の情勢を考えると、仕事量自体にも不安があります。
個人でスタートしてすぐは、大きな物件を受けること自体が難しいです。
信用、資金力、職人の確保、材料の手配、支払い条件。
どれを取っても、会社として長年やってきたところと、出来たばかりの個人事業では差があります。
会社に属している状態なら請けられた大型工事も、独立直後では受けにくい。
そのうえで小型物件の受注まで減少すれば、そもそも仕事がない状態になってしまいます。
仕事がない。
利益もない。
お金もない。
職人さんも離れていく。
この流れに入ってしまうと、独立したばかりの事業者はかなり厳しくなります。
昨今の糊不足も、独立のタイミングを考えるうえでは大きな材料になりました。
年間で数千万から億単位の購入があり、数十年取引のある企業と、年間数百万程度の購入になる出来立ての個人事業主。
材料が通常通り流通している時なら、そこまで大きな差は出ないかもしれません。
しかし、供給が絞られる場面では話が変わります。
メーカーや問屋としても、長年取引している大口の会社を優先せざるを得ないでしょう。
もちろん個人を軽視しているという話ではなく、商売として考えれば当然の判断です。
そうなると、個人で独立したばかりの状態では、仕事があっても材料が入らないというリスクも出てきます。
仕事を取れないリスク。
お金が回らないリスク。
取引先が倒産するリスク。
材料が入らないリスク。
職人さんを確保できないリスク。
こうやって並べてみると、今は独立のベストタイミングではなかったのかもしれません。
では、独立を見送ったことは正解だったのか。
これは正直、まだ分かりません。
なぜなら、今いる会社が絶対に安全とも言い切れないからです。
元請けが倒産するような状況です。
取引先の廃業が増えている状況です。
材料不足や価格上昇も続いています。
いつ自分の会社が大きな影響を受けるかも分かりません。
会社に属しているから安全。
独立したら危険。
そんな単純な話ではないと思います。
ただ一つ言えるのは、独立するなら「勢い」だけでは危ないということです。
独立する前に、最低限考えておきたいことがあります。
まず、売上の見込みです。
「頼むよ」と言ってくれる人がいることはありがたいですが、それが実際にどれくらいの金額になり、どれくらい継続するのか。
ここを冷静に見ないといけません。
次に、資金管理です。
売上が立っても、入金まで時間がかかります。
その間に材料費、外注費、車両費、保険、税金、生活費が出ていきます。
最低でも数カ月分、できれば半年から1年程度は耐えられる資金がないと、精神的にもかなり苦しくなると思います。
そして、取引先の分散です。
1社に依存した独立は、かなり危険です。
その1社が発注を止めた瞬間に終わってしまいます。
担当者の異動や退職だけでも売上が大きく変わることを考えると、複数の発注元を持っておくことは必須でしょう。
さらに、材料の確保や職人さんとの関係も重要です。
仕事を取った後に、材料が入らない。
職人さんが動けない。
これでは信用を失います。
独立するなら、仕事を取る力だけでなく、仕事を最後まで納める力が必要になります。
そう考えると、独立のタイミングというのは本当に難しいです。
景気が良い時に独立すれば仕事は取りやすいかもしれませんが、競争も激しくなります。
景気が悪い時に独立すれば、仕事は少ないかもしれませんが、身軽に動ける強みが出る場面もあります。
材料不足の時は不利ですが、逆に材料確保のルートを持っていれば強みになるかもしれません。
結局のところ、「完全にリスクがないタイミング」なんて存在しないのでしょう。
大事なのは、リスクが小さい時期を待つことではなく、自分がどのリスクなら耐えられるのかを見極めることなのかもしれません。
今の私にとっては、独立を見送った判断は間違いではなかったと思っています。
少なくとも、今年のように糊不足があり、倒産や廃業の話が増え、発注担当者の移動も重なっている状況で、勢いだけで独立していたらかなり危なかったでしょう。
ただ、だからといって独立を完全に諦めたわけではありません。
むしろ、いつでも動ける体制を作っておくことは大事だと感じています。
取引先との関係を維持する。
資金を厚くしておく。
材料や職人さんのルートを確認しておく。
会社にいる間に、自分に足りない部分を見直しておく。
独立するかどうかは、最後は自分で決めるしかありません。
ですが、今のような時代では「独立する勇気」だけでなく、「見送る勇気」も必要なのかもしれません。
遅くなることがリスクになる場合もあります。
早すぎることが致命傷になる場合もあります。
どちらが正解かは、後になってみないと分かりません。
だからこそ、今すぐ動くかどうかだけではなく、
「もし明日動くことになっても大丈夫か」
「もし3年後まで動かないとして、その間に何を準備するか」
この両方を考えておく必要があると思います。
独立のタイミングに絶対の正解はありません。
ただ、リスクを見ずに飛び出すのではなく、リスクを見たうえで準備する。
今はその段階なのかもしれません。