糊不足で奔走している最中ですが、「そもそも何で足りないんだろう?」という原因究明や情報収集は変わらず続けています。
現場としては、ただ「無いです」「入りません」と言われても困るわけです。
クロス屋・床屋・内装屋にとって糊や接着剤が無いというのは、材料があっても施工できないということですからね。
今回は、この「建設業のナイナイ」について、業界内の事情と政治面の問題、両方から考えてみたいと思います。
まず、政府のせいにする前に、業界内の原因から見ていきます。
内装仕上げ材というのは、とんでもない品数があります。
壁紙、床材、巾木、長尺シート、タイルカーペット、塩ビタイルなど、種類も多ければ品番も多い。
そのため、事前に大量に買い置きしておくというのは、かなりリスキーな商材です。
しかし、糊に限っては少し事情が違います。
メーカーごとの違いはあるとはいえ、用途さえ合っていれば使える場面は多く、品質にも極端な差はありません。
使用期限も半年程度あるものが多く、未開封で保管できる場所さえあれば、現場を止めないためにストックしておくという判断は自然です。
つまり、糊は「不足しそう」となった瞬間に、みんなが一斉に確保へ動きやすい商品なんですよね。
その結果、大量注文が一気に入り、通常の出荷体制では処理しきれなくなり、一時的な受注停止につながった。
これが今回の大きな要因の一つだと思います。
さらに、そもそも糊を製造している会社が減っている可能性もあります。
各メーカーが自社ロゴ入りの糊を販売していますが、実際にはすべてを自社製造しているわけではなく、限られた製造業者からOEM供給を受けているものも多いと考えられます。
そうなると、あるメーカーに注文が集中した場合、その裏側にいる製造業者の生産能力を超えてしまいます。
そして一社が受注停止になると、「あの糊が無いらしい」という話だけが先に広がり、今度は別メーカーに注文が集中する。
結果として、どのメーカーも受注停止せざるを得ない状況になっていくわけです。
ここまでは、業界内の構造的な問題です。
ただし、今回の問題はそれだけでは説明しきれない部分もあります。
ここからが本題です。
政府は、原油について「中東以外からも輸入しており、物量としては十分にある」というような説明をしています。
確かに、原油全体の輸入量だけを見れば、他国からの調達によってある程度カバーできているのかもしれません。
しかし、問題は「原油があるかどうか」だけではありません。
糊や塗料、接着剤、樹脂製品などに関係してくるのは、原油から作られるナフサです。
ナフサは石油化学製品の原料であり、建設資材にも大きく関係しています。
ここで重要なのは、原油の総量が足りているように見えても、ナフサに回せる分が十分かどうかは別問題だということです。
現在、政府はガソリン価格を抑えるために補助金を出しています。
その結果、ガソリン価格は本来の市場価格よりも安く抑えられています。
一見すると、これは生活者や事業者にとって助かる政策です。
しかし別の見方をすれば、「ガソリンをこれまで通り使い続けてください」という政策にも見えます。
本来、ガソリン価格が上がれば、ある程度は行動が抑制されます。
不要な移動を控えたり、燃料使用量を減らそうとしたりする動きが出るでしょう。
しかし補助金によって価格が抑えられると、ガソリンの使用量は大きく減りにくくなります。
むしろ「安く抑えられているうちに動いておこう」という心理すら働くかもしれません。
そうなると、燃料として使われる原油の量は減りません。
結果として、ナフサなど石油化学製品の原料に回せる余力が減ってしまう可能性があります。
つまり、政府の燃料補助政策が、間接的にナフサ不足を悪化させているのではないか。
これが今回、かなり有力な見方として出てきています。
もちろん、すべてを政府のせいにするのは簡単です。
業界内にも、在庫の持ち方、OEM依存、情報開示の遅さ、買い占めに近い大量発注など、問題はあります。
ただ、政府が「影響はない」「物量は足りている」と言い続けることで、現場との感覚にズレが生まれているのも事実です。
現場では実際に糊が無い。
塗料も不安定。
接着剤も入荷が読めない。
材料はあっても、それを施工するための副資材が無い。
これを「影響はありません」と言われても、現場としては納得できません。
もし本当に原油やナフサの配分に問題があるのであれば、ガソリン補助金という形ではなく、燃料価格はある程度その時の情勢に合わせて動かし、その代わりに輸送費や燃料費の増加分を、確定申告や企業決算時の税制面で補助する方法もあるはずです。
たとえば、輸送コストや燃料費の増加分に対して、所得税や法人税の減免措置を行う。
そうすれば、石油元売りに補助金を出して価格を抑えるよりも、実際に負担が増えた事業者へ直接的に支援できる可能性があります。
財源についても、現在ガソリン補助金として使っているお金の使い方を変えるだけであれば、まったく新しい財源を探す話ではありません。
結局のところ、今の政策は「ガソリンをこれまで通り使えるようにする」方向に見えます。
しかしその裏側で、ナフサを原料とする糊・塗料・接着剤・樹脂製品などにしわ寄せが来ているのだとすれば、建設業界としては見過ごせない問題です。
建設業の「ナイナイ」は、単純に業者が在庫を持っていないから起きているわけではありません。
製造業者が減り、OEM供給に依存し、情報が遅れ、そこに政治的な燃料政策まで絡んでくる。
その結果として、現場で「糊が無い」「塗料が無い」「接着剤が無い」という形で表面化しているのではないでしょうか。
メーカーも政府も、「影響はありません」と言いたい気持ちは分かります。
不安を煽れば買い占めが起こる。
パニックになれば余計に供給が乱れる。
それは確かにその通りです。
ですが、現場で実際に困っている以上、「影響はない」ではなく、「どこに影響が出ていて、どの程度で回復する見込みなのか」を発信する必要があります。
建設業は、材料だけで成り立っているわけではありません。
糊が無ければ貼れない。
塗料が無ければ仕上げられない。
接着剤が無ければ床も壁も納まらない。
主材料ではなく副資材が止まるだけで、現場全体が止まるのです。
今回の糊不足や塗料不足は、単なる一時的な品薄ではなく、これから先の建設業が抱えるリスクを見せているように感じます。
「材料はあるけど施工できない」
「原油はあるけどナフサが足りない」
「政府は大丈夫と言うけど現場は止まりかけている」
このズレを放置したままでは、また同じような不足が繰り返されるでしょう。
これから先、建設業界としては、メーカー任せ・問屋任せ・政府発表任せではなく、どの資材がどこに依存しているのか、どの副資材が止まると現場が止まるのかを考えておく必要があります。
糊や塗料の不足は、ただの「ナイナイ」ではなく、業界構造と政治判断が現場にどう影響するのかを考えるきっかけになっているのかもしれません。