昨日の記事にも通ずるのですが、年末年始に向けて仕事が重なるタイミングの整理や、職人さんの手配など、ちょっと先の仕事の段取りに動き回っていました。
ある程度目途が立つくらいまでは職人さんの確保も出来ましたし、工程の確認なども進んで、ようやく先が見えてきた感じです。
ところが、この「職人さん探し」の中で困った問題が発生しました。
「仕事は出来るけど、現場に入るための条件を満たしていない」
という職人さんが、思っていた以上にいるんですよね。
建設業では、元請会社や現場によって入場するための条件が異なります。
例えば、職長・安全衛生責任者教育。
現場で職長として作業員を指導・監督する立場になる場合や、一定の安全管理体制が求められる現場などでは、こういった教育を受けていることが必要になります。
法令上の義務が生じる条件とは別に、元請会社が独自の入場条件として受講を求めている場合もあります。
もちろん、すべての現場ですべての職人さんに必要というわけではありません。
ですが、個人事業主として仕事を請け負う以上、自分がどのような立場で現場に入るのか、どのような資格や教育が必要なのかくらいは把握しておいて欲しいところです。
ところが、これが出来ていない人が意外と多いんです。
「そんな講習、受けてないよ」
「今まで必要なかったし」
「面倒だから行きたくない」
こんな返事が返ってくることがあります。
いやいや・・・。
あなた、事業主ですよね?
と思ってしまうんです。
そもそも、建設業で個人事業主として活動している職人さんには、様々な事情があります。
会社に雇われていると自由に仕事を選べない。
会社に利益を取られるくらいなら、自分で仕事を請け負った方がいい。
自分の好きな工具や機械を購入して、仕事に必要な経費として計上したい。
自分の技術で稼ぎたい。
理由は人それぞれでしょうし、独立すること自体は悪いことではありません。
むしろ、技術を身につけた人が独立して、自分の力で仕事を取って稼ぐというのは立派な選択だと思います。
ただし・・・。
自由に仕事をする権利を得るということは、それに伴う責任も自分で負うということです。
会社員であれば、会社が必要な教育を手配してくれたり、資格取得を支援してくれたりすることもあります。
労災保険の手続きだって、基本的には会社側が対応します。
ところが、個人事業主になると、こういった部分も自分で考えなければなりません。
仕事に必要な教育を受ける。
必要な資格を取得する。
保険に加入する。
税金や経費を管理する。
そして、仕事を請け負った以上は、その仕事を責任を持って完了させる。
これらはすべて、事業を営む上で考えなければならないことです。
ところが、独立したことで得られる自由や収入には目を向けても、責任の部分にはあまり関心がない人もいるように感じます。
例えば、講習についてもそうです。
講習に参加すれば、その日は仕事が出来ません。
受講料も必要ですし、交通費なども掛かります。
つまり、目先の収入だけを考えればマイナスです。
だから、
「講習に行くくらいなら仕事していた方がいい」
という判断になるのでしょう。
それも事業主としての判断ですから、本人の自由です。
ただ、その判断によって入れない現場が増えることも、当然受け入れなければなりません。
今は講習を受けていなくても入れる現場がある。
だから困っていない。
それで済んでいるうちはいいんです。
ですが、仕事が減った時にはどうでしょう?
「最近仕事が少ないんだけど、何かない?」
「どこか入れる現場ないかな?」
こんな相談を受けることがあります。
こちらとしても、仕事があるならお願いしたいんです。
でも、いざ手配しようとすると、
「あっ、その現場は講習受けてないと入れないんだった・・・」
となるわけです。
仕事はある。
本人も仕事をしたい。
こちらもお願いしたい。
なのに、必要な準備をしていなかったために仕事が出来ない。
これって、ものすごくもったいないことだと思いませんか?
しかも、困るのは本人だけではありません。
今回の私のように、先々の工程を確認して、職人さんの予定を押さえて、ある程度段取りが出来たと思っていたのに、後から入場条件を満たしていないことが分かる。
そうなると、また別の職人さんを探さなければなりません。
場合によっては工程そのものを組み直す必要も出てきます。
本人は「その現場には入れないんだね」で済むかもしれません。
でも、段取りしている側はそれでは済まないんですよね。
そして、もう一つ気になるのが労災保険です。
さすがに絶対数は少ないのですが、今でも一人親方の労災保険特別加入をしていない職人さんが時々います。
これも、個人事業主として活動するなら知っておいて欲しい部分です。
一般的な労災保険は、基本的に労働者を対象とした制度です。
会社に雇われている従業員であれば、仕事中や通勤中の事故などについて、一定の条件のもとで労災保険による補償を受けられます。
一方、個人事業主として自分で工事を請け負っている一人親方は、原則として労働者には該当しません。
そのため、通常の労災保険では対象にならない場合があります。
そこで用意されているのが「労災保険の特別加入制度」です。
一定の条件を満たして特別加入することで、一人親方でも仕事中などの事故について労災保険の補償を受けられる仕組みです。
法人の経営者などについても、立場や事業規模などに応じた特別加入制度があります。
もちろん、特別加入していないからといって、すべての現場で直ちに法律違反になるという話ではありません。
ただ、現場によっては特別加入が入場条件になっていることもあります。
それ以前に、自分が仕事中に大きなケガをした場合のことを考えているのでしょうか?
建設業は、どれだけ注意していても事故の可能性がある仕事です。
脚立から転落する。
工具でケガをする。
重量物を運んでいる時に事故が起きる。
自分が注意していても、周囲の作業によって事故に巻き込まれる可能性だってあります。
そんな時に、
「自分は会社員じゃないから、普通の労災保険の対象にならないことがある」
ということすら知らなかったら・・・。
事業主として、あまりにも危機管理が足りないと思うんです。
もちろん、保険に加入しているから事故を起こしてもいいという話ではありません。
事故を防ぐための知識や教育を身につけることと、万が一の事故に備えること。
どちらも大切なことです。
私の経験上、こうした安全管理への意識が低い職人さんほど、普段の作業でも危なっかしい場面が目につくことがあります。
もちろん、講習を受けているから事故を起こさないわけでもありませんし、未受講だから必ず事故を起こすというわけでもありません。
ただ、安全に関わることを「面倒だから」で片付けてしまう姿勢そのものが、問題なのではないでしょうか。
そして、これは建設業に限った話でもないと思います。
個人事業主として独立すること自体は、今の時代それほど難しいことではありません。
特に建設業の職人さんの場合、一定の技術や経験があり、必要な道具を揃えて、仕事を依頼してくれる取引先があれば、比較的独立しやすい職種だと思います。
もちろん、請け負う工事の内容や規模によっては建設業許可などが必要になりますし、独立すれば誰でも簡単に稼げるという話ではありません。
それでも、独立すること自体のハードルは、他業種と比べて低い部分があるのではないでしょうか。
だからこそ、事業主としての準備が十分でないまま独立してしまう人もいるのかもしれません。
ですが、独立することと、事業を継続していくことは別の話です。
目先の仕事があるから大丈夫。
今まで問題なかったから大丈夫。
周りの職人さんもやっていないから大丈夫。
そんな考え方では、いずれ困る場面が出てくると思います。
私自身、これまで何度も独立について考えてきました。
自分で仕事を請け負えば、今より収入を増やせる可能性もあります。
自分の判断で仕事を進められる自由もあります。
ですが、その一方で、資金繰りや税金、保険、各種手続き、取引先との契約、仕事がなくなった時のリスクなど、考えなければならないことが山ほどあります。
その結果、今のところは、
「今ではない!」
「現状ではデメリットの方が大きい!」
という判断をしています。
独立する能力があるかどうかという話ではなく、独立することで発生する責任や負担まで考えた時に、今の自分にとって最善の選択なのか?ということです。
別に、独立することが偉いわけでもありません。
会社員でいることが悪いわけでもありません。
どちらにもメリットとデメリットがあります。
大切なのは、それらを理解した上で自分の立場を選ぶことだと思います。
個人事業主であっても、法人の社長であっても、事業を営む立場として考えなければならないことには共通する部分が沢山あります。
もちろん、法律上の義務や制度には違いがあります。
ですが、自分の事業に必要な知識を身につけ、必要な準備をして、仕事に対する責任を負うという基本的な部分は同じでしょう。
「知らなかった」
「面倒だった」
「今まで必要なかった」
これらが通用しない場面も、事業を続けていれば必ず出てきます。
今の世の中、調べようと思えば様々な情報を手に入れることが出来ます。
もちろん、情報が多すぎて何が正しいのか判断しづらい部分もありますが、少なくとも自分の仕事に関係する制度や必要な教育くらいは、調べておくべきではないでしょうか。
ましてや、それによって自分の仕事の選択肢が増えるのであれば、講習に掛かる費用や時間だって、将来の仕事に向けた投資だと思います。
今回も、せっかく先々の段取りを進めていたのに、必要な条件を満たしていない職人さんがいたことで、一部の手配をやり直すことになりました。
仕事の技術は十分あるのに、仕事に入るための準備が出来ていない。
本当にもったいない話です。
個人事業主として自由に働くのは結構です。
自分の判断で仕事を選ぶのも、もちろん自由です。
でも、「自由に働けること」と「責任を負わなくていいこと」は、まったく違います。
せっかく独立して自分の力で仕事をしているのですから、技術だけでなく、事業主としての知識や責任も身につけて欲しい。
そして、自分の判断で仕事の可能性を狭めてしまわないようにして欲しい。
そんなことを、今日の職人さんの手配をしながら改めて感じました。