建設業界では長年にわたって「職人不足」という言葉が使われてきました。
実際、私がこの業界で仕事をしてきた中でも、リーマンショックのような大きな景気後退によって一時的に仕事が減った時期はありましたが、基本的には職人さんの数に見合うだけの仕事量があったように思います。
ところが最近、ちょっと状況が変わってきたように感じるんですよね。
「職人さんが足りない」と言われている一方で、「仕事がない」と言っている職人さんも増えている。
一見すると矛盾しているような話ですが、現場の状況を見ていると、なんとなくその理由が見えてきます。
仕事はあるのに現場が動かない
まず、建設業界全体の仕事量について。
住宅にしても大型物件にしても、建物を建てたいという需要そのものが完全になくなったわけではありません。
しかし、最近は元請け会社が受注できる仕事量にも制限が出てきています。
特に大きいのが現場管理者の問題。
働き方改革による労働時間の制限や、安全管理、品質管理、各種書類への対応など、現場管理者に求められる仕事は増える一方です。
当然ながら、一人の現場監督が管理できる物件数には限界があります。
以前なら多少無理をしてでも受注していたような会社でも、今は管理できる人員が確保できなければ、そもそも受注することが難しくなっています。
つまり、建物を建てたい人がいても、それを請け負える会社がない。
結果として、需要はあるのに着工に至らない物件が出てくるわけです。
さらに、資材価格や人件費の高騰によって、予算が合わずに計画が延期されたり、見直されたりする物件もあります。
こうなると、当然ながら職人さんに回ってくる仕事も減ってしまいます。
ただ、私が最近感じているのは、それだけではないんですよね。
安ければ売れる時代でもなくなってきた?
これは私の周囲で感じている傾向ですが、同じ建設会社でも受注状況にかなり差が出てきているように思います。
多少価格が高くても、しっかりした品質の建物を提供している会社には、それなりに仕事が集まっている。
一方で、「安く作ればいい」「早く完成すればいい」という考え方が強かった会社では、以前ほど受注できなくなっているようにも感じます。
もちろん、価格の安さを重視するお客さんは今でもたくさんいます。
ただ、住宅にしても建築物にしても、決して安い買い物ではありません。
特に最近は地震や豪雨などの自然災害についても頻繁に報道されています。
建物の安全性や耐久性、施工品質などに対する関心も高まっているのではないでしょうか。
そう考えると、単純に「安いから」という理由だけでは選ばれにくくなっているのかもしれません。
そして、もう一つ気になるのがクレームの問題です。
私の周囲で見ている限りでは、むしろ価格の安い物件の方がトラブルになっている印象があります。
もちろん、安い物件だから施工品質が悪いという話ではありません。
ただ、限られた予算の中で無理な工程を組んだり、施工費を削り過ぎたりすれば、どこかにしわ寄せが出てきます。
それでいて、お客さんから求められる品質は決して低くありません。
例えば、3,000万円の住宅を建てるお客さんからすれば、3,000万円というのは大金です。
当然ながら、それだけのお金を払う以上、しっかりしたものを作ってもらいたいと思うでしょう。
しかし、建てる側からすれば、3,000万円の住宅に7,000万円クラスの仕様や品質を求められても対応できない部分があります。
この認識の違いがトラブルにつながることもあるのでしょう。
安く作ること自体が悪いわけではありませんが、価格を下げるために必要な品質まで削ってしまうような仕事のやり方では、今後ますます厳しくなるように思います。
職人さんにも仕事が集まる人と集まらない人がいる
ここからが今日の本題です。
建設会社の受注状況に差が出てくると、当然ながらそこで働く職人さんにも影響が出てきます。
例えば、品質を重視する建設会社では、当然ながら施工する職人さんにも一定以上の技術力が求められます。
仕上がりがきれいなのはもちろん、施工方法を理解していることや、現場の状況に応じて適切に対応できること。
さらに、他業種との取り合いや工程の調整など、単純に施工するだけではない対応力も必要になってきます。
こういった職人さんは、多少施工単価が高くても仕事をお願いしたいと思うものです。
実際、私自身もそういった職人さんを確保するためなら、ある程度の単価を出してでも来てもらいたいと考えています。
なぜなら、施工単価だけを安く抑えたところで、手直しやクレーム対応が発生してしまえば、結果的に高くつくこともあるからです。
何より、安心して現場を任せられるというのは大きな価値があります。
一方で、そういった品質を求められる現場に対応できない職人さんもいます。
施工スピードは速くても仕上がりが雑だったり、決められた施工方法を守れなかったり、現場で問題が発生した時に適切な判断ができなかったり。
こういった職人さんは、どうしても受注できる仕事の範囲が限られてしまいます。
これまでは、それでも仕事がありました。
価格を優先する物件や、とにかく早く仕上げたい現場など、それぞれの職人さんに合った仕事が一定数あったからです。
ところが、その仕事自体が減ってきているとしたらどうでしょう?
技術力のある職人さんには仕事が集中する一方で、対応できる現場が限られる職人さんは仕事そのものがなくなってしまう。
そんな状況が少しずつ目立つようになってきた気がするんですよね。
施工単価にも格差が生まれている
さらに厳しいのが施工単価の問題です。
技術力があって、どこの現場でも安心して任せられる職人さん。
こういった人は需要があるので、ある程度強気の単価でも仕事を確保できます。
むしろ元請け側からすれば、多少高くてもお願いしたいという状況です。
ところが、対応できる仕事が限られている職人さんはそうはいきません。
仕事が減れば、残っている仕事を取り合うことになります。
その結果、他の職人さんより安い単価を提示してでも仕事を確保しようとする人が出てきます。
そうなると、ますます単価が下がってしまいます。
一方では、高い単価でも仕事が途切れない職人さんがいる。
もう一方では、安い仕事をさらに安い単価で取り合っている職人さんがいる。
同じ業種で同じような仕事をしているはずなのに、受注量も施工単価も大きく違ってくる。
これまでも技術力による単価の差はありましたが、最近はその差が以前より顕著になってきたように感じます。
もちろん、単純に仕事が多いから技術力が高い、仕事が少ないから技術力が低いというわけではありません。
営業力や人脈、地域の需要、取引先の状況などによっても仕事量は変わります。
ただ、長い目で見た時に、安さだけを武器に仕事を確保するというやり方は、今後ますます難しくなっていくのではないでしょうか。
職人不足が進めば誰でも仕事ができるようになる?
では、今後はどうなっていくのでしょうか。
建設業界では高齢化が進んでおり、今後も引退する職人さんが増えていくことは十分考えられます。
そうなれば、当然ながら職人さんの絶対数は減っていきます。
単純に考えれば、職人さんが減ることで残った人に仕事が回ってくるようにも思えます。
しかし、私は必ずしもそうなるとは考えていません。
なぜなら、職人さんの人数が足りないことと、求められる仕事ができる職人さんが足りないことは、まったく別の問題だからです。
例えば、一定以上の施工品質を求める現場があったとして、そこに対応できる職人さんがいなければ、人数だけ揃えても意味がありません。
むしろ、施工品質を確保できないのであれば、元請け会社はその仕事を受注しないという判断をするかもしれません。
今後、施工品質に対する要求がさらに高まれば、この傾向は一層強くなる可能性もあります。
もちろん、職人不足が深刻になれば施工単価全体が上昇することも考えられます。
しかし、それによってすべての職人さんが同じように恩恵を受けられるとは限りません。
仕事を選べる職人さんと、仕事を選んでもらえない職人さん。
この差は、むしろ今後も残り続けるのではないかと考えています。
独立することと一人前になることは違う
もう一つ、以前から気になっていることがあります。
それが、十分な技術を身につける前に独立してしまう職人さんがいることです。
もちろん、独立すること自体は悪いことではありません。
若いうちから独立して、経験を積みながら成長していく人もいます。
ただ、基本的な施工技術や知識が身についていない状態で独立してしまうと、どうしても対応できる仕事が限られてしまいます。
自分が経験したことのある施工方法しか分からない。
少し特殊な材料になると対応できない。
現場で想定外の問題が起きても、適切な判断ができない。
これでは、仕事の幅を広げることが難しくなってしまいます。
そして、仕事の幅が狭いということは、それだけ受注できる現場も限られるということです。
景気が良く、仕事が豊富にある時代なら、それでも何とかなったのかもしれません。
しかし、今後はそうはいかなくなる可能性があります。
独立しているから一人前なのではなく、一人前の仕事ができるからこそ、独立しても仕事を確保できる。
結局は、そういうことなんだと思います。
最後に生き残るのは技術を持った職人さん
今後、建設業界がどう変化していくのかは分かりません。
職人さんの高齢化によって人手不足がさらに深刻になるのか、それとも建設需要そのものが減っていくのか。
あるいは、施工方法の簡略化や新しい技術の導入によって、今とは違った働き方になっていくのかもしれません。
ただ、どんな時代になったとしても、技術力や対応力を持った職人さんが必要とされることに変わりはないと思います。
むしろ、これからは単純に「施工できる」というだけではなく、求められる品質を理解して、それに対応できることが重要になってくるのでしょう。
仕事がなくなってから技術を身につけようと思っても、すぐに身につくものではありません。
日頃から新しい材料や施工方法を学び、経験を積み重ねていくことが、結果的に自分の仕事を守ることにつながるのだと思います。
そして、私自身も仕事を発注する立場として、単純に安い職人さんを探すのではなく、安心して仕事を任せられる職人さんを確保していかなければなりません。
とはいえ、そういった職人さんは既にあちこちから引っ張りだこ。
なかなか新しく確保するのも難しいんですよね~。
職人不足と言われているのに、仕事がない職人さんもいる。
そんな矛盾した状況を見ながら、結局はしっかり技術を身につけてきた人が生き残っていくんだろうな~と感じています。
さて、私も新しい職人さんを探さないといけないんですが・・・。
仕事ができる職人さんほど、なかなか空いてないんですよね~・・・。