最近、職人さんの数がどんどん減っていることもあり、「これからは社員として職人を続けるという選択肢もありますよ」と話をする機会が増えています。
ところが、この話をすると昔から個人事業主として働いてきた職人さんほど、あまり良い反応は返ってきません。
「社員なんて縛られるだけ」
「自由がなくなる」
「稼げなくなる」
そんな言葉をよく耳にします。
一方で、これから職人になろうとする若い世代を見ると、逆に社員職人を希望する子がかなり増えているように感じます。
昔と今では、働くことに対する価値観そのものが変わってきているのでしょう。
個人事業主という働き方
個人事業主の最大の魅力は自由です。
仕事を受けるか断るかも自分で決められますし、身体が動く限り働けば、その分だけ売上も増えていきます。
会社員のように勤務時間に縛られることもありません。
また、経費計上や節税方法もある程度自分で選択できますし、車や工具も好きなものを購入できます。
「頑張れば頑張っただけ収入になる。」
この感覚は個人事業主ならではの魅力だと思います。
ただ、その反面、仕事が無ければ収入はゼロです。
ケガや病気で働けなくなれば、その期間の売上も止まります。
社会保険や年金、税金なども自分で管理しなければなりませんし、将来の退職金も自分で準備しなければいけません。
自由と引き換えに、すべての責任を自分で背負う働き方とも言えます。
社員職人という働き方
社員職人になると世界が少し変わります。
労働時間には一定の制限があります。
休日も決められていますし、有給休暇もあります。
毎月の給料も安定していますし、会社によっては賞与や退職金制度もあります。
社会保険や厚生年金なども会社が手続きをしてくれるので、自分で考えることは少なくなります。
もちろんデメリットもあります。
個人事業主と比較すると手取り額は少なく見えます。
社会保険料なども自動的に引かれますし、車や工具も会社のルールに従う必要があります。
仕事を受けるか断るかも自分では決められません。
それでも若い世代は「安定」を重視する人が増えてきました。
大きく稼ぐことよりも、休日がしっかりあり、毎月決まった給料が入ることに魅力を感じる人が多いようです。
職人と営業では独立の魅力が違う
面白いのは、営業職になると逆の傾向が見えてくることです。
営業職は成果が数字としてはっきり見えます。
自分が頑張って利益を出しても、その利益は会社全体のものになります。
「これだけ利益を出しているのに、自分の給料はあまり増えない。」
そんな感覚を持つ人も少なくありません。
さらに営業は、自分一人で仕事をする職種ではありません。
職人さんや協力会社さんを増やせば、自分が直接動かなくても売上を伸ばしていくことができます。
つまり、自分の時間だけが収入の上限ではなくなる可能性があります。
だからこそ営業職は独立を目指す人が比較的多く、逆に職人は社員志向が強くなってきているように感じます。
会社側も簡単には社員を増やせない
とはいえ、「社員職人を増やしましょう」で簡単に解決する話ではありません。
会社が社員を雇うということは、毎月固定費が増えるということです。
仕事が少ない月でも給料は支払わなければなりません。
社会保険料や福利厚生なども会社負担になります。
外注中心であれば、仕事が少ない時は発注量を調整できますが、社員はそうはいきません。
だから会社としては、
「社員を雇わないと人材が育たない。」
でも、
「利益が十分でないと社員を増やせない。」
という難しい立場になっています。
しかも今は建築費が上がっているとはいえ、その多くは材料費の値上がりによるものです。
会社の利益まで十分増えているとは言えず、新しい雇用へ回せるだけの余裕がある会社は決して多くありません。
これから必要なのは「利益も上がる値上げ」
若い世代が社員職人を選ぶ流れは、これからさらに強くなっていくと思います。
そうなると、会社には社員を雇えるだけの利益が必要になります。
しかし利益を確保できなければ、人を雇えません。
人がいなければ工事も回りません。
結局は建設業全体が苦しくなってしまいます。
材料費だけが上がるのではなく、人件費や会社の利益も含めて適正な建築費として社会全体が受け入れていく。
そんな流れにならない限り、人手不足はなかなか解消されないのではないでしょうか。
個人事業主が悪い、社員が良いという話ではありません。
時代が変わり、求められる働き方も変わってきている。
そんな変化を最近、現場で強く感じています。